「タダで入れてあげるから録音してよ。」
札幌のある種の音楽好きには良く知られているレコード店店主(小さな巨人)AKBから電話がかかってきたのは、ライブ開始の一時間半前、俺が帰宅中のバスに乗っているとき(正確には、バスの中で電話に出るのはマナー違反なので、バスを降りて俺からかけ直したのだが)だった。我が家に到着するなり、すぐさまマイクをカバンに詰め(詰めるほど大きくはない)、バス停にひきかえす。市の中心部へ向かうバスは、帰宅時に乗ったバスと同じ車両だった。いまだ帰宅ラッシュの時間ではあったが、立錐の余地もないほど混雑するのは下り方向のみで、上り方向の今回は乗客も片手で数えられる程度、全員が座席に座ることが出来た。俺は、車両後部にある二人がけのシートに身を沈め、向かう先で繰り広げられるであろうライブ・パフォーマンスに思いを馳せた。